大会テーマ|朝鮮学校と日本社会 ―韓国人研究者の民族誌(エスノグラフィー)を通して―

開催の趣旨

 戦後(解放後)60年以上にわたって在日コリアンの民族教育を担ってきた朝鮮学校が逆風にさらされている。最近では、高等学校授業料無償化の適用除外、地方自治体による補助金打ち切り、「在特会」の会員による学校襲撃など、日本社会の圧力が急速に高まっている。北朝鮮=絶対悪であり、そこに繋がる朝鮮学校などなくなって当然という「空気」がいつの間にか醸成されているようである。
 この研究大会では、関西の朝鮮学校民族学級でフィールドワークを行い、1冊の民族誌を刊行した宋基燦氏(大谷大学助教)をゲストに迎え、朝鮮学校における教育実践の具体的な内容を報告していただく。日本で生まれ日本語を母語とする在日コリアンの生徒が朝鮮学校で何を学び、どのようなプロセスで「朝鮮人らしさ」を身につけていくのか。韓国人研究者の民族誌を通して、異文化として朝鮮学校を理解する視点を議論していきたい。

司会:浮葉正親(名古屋大学国際言語センター教授)
日時
2013年12月08日(日)14時〜17時30分(開場13時30分)
会場
神戸女子大学教育センター(三宮キャンパス)5階特別講義室

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発表題目   「朝鮮学校の民族教育とアイデンティティ・マネジメント――トランスナショナルアイデンティティへ向けて――」

宋基燦(ソン・ギチャン)氏(大谷大学文学部助教

[要旨]
 朝鮮学校は日本で最も大きい外国人学校組織である。ところが、政治的に北朝鮮を支持している総連によって運営されている事実から、朝鮮学校への一般的な理解の中には北朝鮮と関連付けた批判的なものが多く、これは「高校無償化」政策の対象から朝鮮学校だけが除外された差別の現実とつながっている。朝鮮学校の現場をよく知っている在日コリアンのなかでも、朝鮮学校の教育は北朝鮮国民主義的教育内容を踏襲している時代遅れのものと思っている人が少なくない。
 確かに朝鮮学校の教育は一見国民主義的であり、強力な集団主義に基づき、個人を抑圧する教育のように見える。ところが、長年の現場調査を通じて報告者は、決して「国民主義的教育」に包摂されない「自由な個人」の姿も共存していることを確認した。そこで本発表は、まず朝鮮学校ができるまでの歴史を振り返り、その現況を察した上で、朝鮮学校の教育の持つ意味について考えたい。
 朝鮮学校の実践から生まれるものは、戦略的に本質主義に頼らざるを得なかったアイデンティティ・ポリティクスの行き詰まりを回避しながらも、個人的次元へと脱構築されることをも避けることができる、個人におけるアイデンティティの管理能力である。


[プロフィール]1970年、韓国生まれ。韓国・漢陽大学文化人類学科卒業、同大学院修士課程修了後来日。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。京都大学筑波大学神戸女学院大学の非常勤講師を経て現在大谷大学社会学助教
著書:『「語られないもの」としての朝鮮学校―在日民族教育とアイデンティティ・ポリティクス』(岩波書店、2012)
ほか


コメント1   金泰植(キム・テシク)氏(獨協大学聖心女子大学日本体育大学非常勤講師)

[プロフィール]1980年生まれの在日朝鮮人三世。茨城朝鮮初中高級学校、朝鮮大学校国語学部卒業。九州大学大学院比較社会文化学府博士課程在籍時にソウル大学校社会科学大学院社会学科へ交換留学、ソウル大学校日本研究所での補助研究員を経て現在に至る。専門は社会学、研究テーマは「朴正煕政権におけるヘゲモニーの構築と在日朝鮮人
論文:「祖国とディアスポラ―1970年代韓国映画における在日朝鮮人表象」、松田素二・鄭根埴編『コリアンディアスポラと東アジア社会』(京都大学学術出版会、2013)
論文:「在外国民参政権在日朝鮮人の国籍をめぐる政治」『マテシス・ウニウェルサリス』vol.13、獨協大学国際教養学部、2012.
ほか


コメント2   川森博司氏(神戸女子大学文学部史学科教授)

[プロフィール]1957年生まれ。大阪大学大学院文学研究科後期博士課程中退。博士(文学)。韓国・蔚山大学校専任講師、国立歴史民俗博物館助手、大阪大学文学部講師、甲子園大学人間文化学部助教授を経て、2005年より現職。専門は民俗学文化人類学
著書:『日本昔話の構造と語り手』(大阪大学出版会、2000)(単著)
著書:『日本の民俗3 物と人の交流』(吉川弘文館、2008)(山本志乃・島村恭則と共著)
論文:「当事者の声と民俗誌―日本民俗学のもうひとつの可能性―」『東洋文化』93:199-218.2012.
論文:「記憶から声へ―共同作業としての民俗誌の可能性―」、岩本通弥編『現代民俗誌の地平3 記憶』朝倉書店、pp.72-89.2003.
ほか